NEVER GREEN age15 vol.3 ---ダンサーは右手が命
| 不思議と、ヤマトと俺は出撃が重ならないな。 見渡す限りの青。眼下にはどこまでも白。その中にあるものは、傍らを飛ぶアマルフィ機だけ。 この高度のままあと三十分も飛べば、南南西からの爆撃機二機と合流する予定だ。合流地点では、既に爆撃機の護衛をしている戦闘機三機と合わせて五機になり、一時間ほど更に護衛を務めて今日の任務は終了する予定になっている。 護衛任務が一時間ということは、間の三十分付近にもっとも敵から狙われやすいポイントがあるということ。端的に言えば、そのポイントを通過してしまうのなら、今日はダンスは無し。体調不良でお開きだ。 ダンスと護衛時間を考えるならもう少し高度を落としたいところだが、分厚い雲に覆われた下は容赦の無い雷雨だ。そちらを飛んで精神を摩耗するのと、上を飛んで燃料を気にするのと、二者択一に迫られたが迷う事無く後者を選んだ。 空で散弾銃を浴びるのも悪くは無い。が、ダンスの方が魅力的なのだから致し方ない。 このままダンスが無ければ、帰りは死んで帰るのも良いかもしれない。が、今のところは絶好調を維持しておきたい。その為には、疲れていない神経は何よりも重要になる。 そんな思考の延長戦に、何故だかヤマトの顔が浮かんできた。俺以外の全員がヤマトと任務に飛んだことがあり、顔を突き合わせばその話ばかりしてくるのが原因かもしれない。 とりあえずイザークは任務の翌日、わざわざ部屋まで来て、ヤマトにライバル宣言をしていった。俺も配備直後にやられたが、だから何なのか未だによく分からない。イザークの言動からすれば、落とす数を競っているようだ。しかしパイロットの腕は、敵を落とすだけでは測れないと思うのだが。無論、様々な能力が全て敵を落とすために集約されているのだろうけれども。 ヤマトが死人のような顔をして帰って来たあの日。イザークは一機しか落とせなかったらしい。その話をヤマトから聞いて、単純な奴だと心底思った。が、単純さはパイロットにとって欠かせない素質だ。 空さえあれば、他に何も要らなくなる。 「もし、アスラン」 唐突に、ニコルから無線が送られてきた。別のグループと合流してしまえば、全周波で聞かれてしまう無線は使うのを躊躇われるが、今はまだそうではない。 「なんだ」 勿論俺もそれを分かっているので、持て余していた暇を使って無線を返す。 「今日、お互いに一機でも落とせたら、ご飯に行きませんか」 「飯?」 ニコルからの誘いは珍しくは無かったが、こんな条件付きは珍しい。 「はい。キラさんと、あと一応イザークとディアッカも誘って」 「全員でか?」 これもまた、珍しい誘いだった。イザークが俺を見ればすぐに喧嘩腰になるのに嘆息して、いつもニコルは俺たちを別々に誘っているのだ。人づきあいが苦にならないタイプらしく、ほぼ毎晩誰かと飯に行っているのを見かける。まあイザークには、殆ど袖にされているらしいが。 「はい。キラさんの親睦会…みたいなものができたらなぁと思いまして」 「…まあ、ヤマトは喜ぶかもな」 他の三人の思惑はどうあれ、ヤマト自身はそのような催しは好みそうだ。歓迎会ではなく親睦会と言う所に、ニコルの配慮が感じられる。 仲良くなる、深く付き合う事を厭う奴もいれば、好む奴もいる。同じパイロットなのに不思議なことだ。けれどまあ、一人一人を考えればそれなりに単純にできているのだろうな、と、慰めにも似た思いを抱く。 俺だけ違うなんて、そんな御免な事はない。 「ヤマトの事が、知りたいんだろう?」 「まあ…Noではないですね」 最近になって、あの噂の続きが流れ出したのだ。ディアッカが任務で合流した戦闘機のパイロットが、昔ヤマトと同じ隊に居た事があったらしい。そいつの話に寄れば、ヤマトが隊の唯一の生き残りとして別のチームに配置換えになるのは、これが初めてのことではないらしい。 隊というのは、いつ全滅になるか分からない。パイロットの全滅も、官舎への爆撃も、チームがチームとして存続できなくなれば全滅の呼称で括られる。が、唯一の生き残りということは、最悪のケースで何時も死に損ねてきたということだ。他の味方の戦闘機が全て落とされる中で生き残ったり、更にはそうして引き返してみれば、官舎が燃えていたりというような。 つまり、言わなくとも。ヤマトはエース中のエースだということになる。本来なら、それだけの武勲を上げれば本部へ転属になってもおかしくないだろう。がしかし、今も彼はこうして最前線で空を飛んでいる。 不思議なことは、増えるばかりだった。 「なら、ヤマトだけを誘って二人で行けば良いだろう」 ヤマトの話を聞きたいだけならそうすれば良い。彼自身が、話すかどうかは別問題だが。 「うーん。僕も最初そう思ったんですけど。なんか、悔しいじゃないですか」 「悔しい?」 「だって、キラさんはそのつもり無いかもしれないですけど、永遠と自慢話聞かされるのと同じような気がするんですよね」 「…ああ」 ヤマトは、年だって俺たちとそうは変わらない。はっきり聞いていないから分からないが、離れていても二つだろう。同じ年にも見える。それに対して、俺たち四人は今年の夏にパイロットになったばかりだ。まだ経験も浅いし、何よりイザークなど競争意識が激しい者すら居る始末だ。 空なんて、笑って死ぬために行くのだから他人はどうだって良いと思うのだけれど。 ともかく、ケツがまだまだ青い俺たちは、大人しくヤマトの話を聞いている自信が無い。此方から聞き出そうとしておいて全く勝手な話だが、分からないことは無かった。 他人は他人と割り切るつもりだが、それでもそう年の変わらないヤツが、そう幾つも武勇伝を持っていたのでは胸糞悪い。 「だから、せめて僕たちは最新の土産話くらい持っていかないと」 「なるほど」 少しくらい、割を合わせないと聞く自信も湧かないということ。 「精々、ダンスの開催を期待しないとな」 これ以上話す気にならなかったから、返答を待たずに無線を切った。少なからず、俺自身もニコルと同じ気持ちであったことに苛ついていた。 ヤマトに付いて回る、意味の分からない不可解さ。何時しか、知れるなら知りたいと思っていたということか。 右手が、疼く。 操縦桿をまるで愛撫するように一撫でして、トリガーにゆっくりと指を這わす。 撃ちたい、と右手が訴える。 殺したい。 今なら、最高のダンスが踊れる。 不意に、視界が陰る。定刻通り。三機の爆撃機が、ゆったりと羽を伸ばしながら此方に近付いて来る。戦闘機より随分と体は大きく、その為に周りを既に護衛している三機の戦闘機が、まるで鼠に集るハエのように見える。 「位置確認。合流準備」 どちらからともなく、硬い声が漏れる。 爆撃機は、戦闘機よりも随分高い処を飛ぶ。それは燃料に余裕があるからでもあるし、機体に見合う大きなエンジンを積んでいるからでもある。 そしてまた、その高さまで戦闘機はなかなか上がれないからこそ、戦闘機はその下を護れば良いのであって、護衛は格段にやりやすくなる。 ハエが、五匹に増える。 一機、見慣れた機体がある。隣のチームに所属する戦闘機だ。 機体の前面を全て金色に塗りつぶしたその機体は、太陽の光を乱反射してやけに眩しい。そんなことをしたら操縦しにくいのではないかと思うのだが、想像に反してこの機体は何度も死地を切り抜けた、優秀且つ皮肉な死神として噂されていた。 まるで天国のように神々しい光を放つくせに、遭遇したら二度と生きて帰れない、と。 眩しくて眩みそうになる金によく目を凝らせば、その中にぽつぽつと黒い斑点のようなものが見える。 一見して数えられないほどにはあるそれは、おそらくこれまで、この機体が落としてきた数なのだろう。あのように、機体に落とした数を逐一マークしている奴もいる。それはそれで自己満の勲章のような物かもしれないが、数に囚われるようで好きではなかった。 軽く片手を上げてパイロットに挨拶すれば、向こうも同じように返してくる。 ゴーグルをしているから顔は分からないが、パイロットの髪も機体と同じような金色だ。 きらきらと光って、やたら眩しい。あんな塗料を、何処で仕入れてきたのだろう。 また、右手がごそりと動く。トリガーを握りしめた俺の右手は、限りなく乱暴者になる。空に上がってしまえば、殺したくて殺したくてたまらない。今か今かとダンスを待ちわびて、一時鎮めることすら困難になることもある。 諌めようとすればすかさず、何のために飛んでいるのだと問い返される。 殺すためなのだから、言い返せるはずも無い。 たぶん俺の右手は、体中の何処の器官よりも、素直で単純だ。パイロットに相応しい。 今日死んでしまえば、ヤマトのくだらない話を聞かなくて済む。 けれど、どんなダンスでも良いわけではない。最も神経をすり減らし、何万分の一秒を凌ぎ合い、何度もループして敵の後ろを取る。右手は暴れまくり、ありったけの弾をこれでもかと敵に打ち込む。 どちらが残るかというぎりぎりの処で、敵の腕に感嘆して、落ちる。 そんなダンスが、好みだ。 もしかしたらヤマトは、そのようなダンスを語って聞かせるかもしれない。 俺は、その時どんな顔をしているのだろう。 右手は、おとなしくしていてくれるだろうか。 苛つく。ヤマトのことを考えると、いつもそうだ。 |
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