怠惰と惰性と性欲と 



1.「次は、僕がきみを誘う」





それは、朝から雨降りの日曜日のことだった。

珍しくキラもアスランも予定が無い日曜日で、そうなることが一週間くらい前から分かっていたから。ならば久しぶりに二人で何処かへ遊びに行こうかと、そんなことを殆ど無計画に話し合っていたら。
前日の夜になって、盛大に雨が降り始めた。
キラはちょっと残念に思ったけれど、もう11月で只でさえ肌寒い気候だというのに、更に冷たい雨が降る中を、わざわざ出掛ける気にはなれない。それはアスランも同じ気持ちのようで、土曜日の夜。困ったように顔を見合せて、また今度のお楽しみにしようかと、その意見で話は纏まったのだ。

其処までは良かったのに。とキラは思う。
いきなり翌日の予定は真っ白になってしまったけれど。その日の土曜日は昼過ぎまで会議があってその後いろいろと視察があって。所謂二人ともが休日出勤という形だったから、体は一週間分の疲れが溜まっている。翌日の休みに浮かれて夜更かしどころではなく、キラはとりあえず、一瞬でも早く眠ってしまいたかった。

窓に盛大に雨粒がぶつかる音がして、その中を壁掛け時計の秒針の音がやけに響く。窓際に眠るキラはいつもより体感温度が肌寒くて、つい無意識に傍らの存在に体を擦り寄せた。2人共用のベッドはダブルサイズで、多少キラの寝ぞうが悪くても、アスランに甚大な被害が及ぶことは殆どない。寒いからと湯船にいつもより長く浸かった体は火照って温かくて、キラはアスランの足に自分の足を絡ませ、胸元に頬を擦り寄せつつもしっかり腕枕をして貰った。そうしてキラ的にはとっても安心するベストポジションを確保して、さあ安眠を貪ろうとゆっくりと瞼を閉じる。するとそれだけでうとうとと睡魔が襲って来て、とても心地よかった。それなのに。
むずむずと、アスランの身じろぎが止まらない。寝にくい体勢ならば、なんとかしてリラックスできるように腕や体の向きを変えるだろう。それは分かる。けれどアスランは、動かしてまた戻して、といった具合や、特に意味も無くそわそわと腰の辺りを揺らめかせるばかりで、ちっとも落ち着かない。
確かにキラは酷く眠いけれど、至近距離でそんなに動かれてしまっては流石に眠れない。

いったいどうしたんだと瞼を開ければ、暗がりにその存在を主張して光るエメラルドと、一瞬で目が合ってしまって少しだけ驚く。

そして悲しい事に、『またか』と思ったのだ。

降りてきたキスに観念してキラからも反応すると、アスランは一気に体を反転させてキラを押し倒した。



気持ち良くないわけじゃない、と思う。
別に、そういうことが嫌いなわけでもない。
けれど、キラは常々思うのだ。
自分とアスランの「ソウイウコト」をしたくなる頻度は、だいぶ違うんじゃないか、と。

何処かで聞いた話だけど、男の人はとっても疲れている時に性欲がアップしてしまうらしい。その話が本当なら、疲れに疲れきっている一週間の終わりプラス休日出勤明けの土曜の夜など、アスランは疲れているにも関わらずものすごく「その気」になりやすいということだ。でも同じ男だけれど、キラは全くそうは思わない。
自分がそっち方面に対して淡泊であることは認める。けれど、それだけで解決できないからキラは内心で溜息をついてしまうのだ。

繰り返すと、決して気持ち良くないわけじゃない。
ただ、キラは眠いだけなのだ。
だから、押し倒されてふかふかのベッドに受け止められるとそれだけでちょっと寝たいな、と思ってしまうし、アスランがやわやわとキラの全身を撫でたり舐めたりしている時も、とても気持ちいいし腰は跳ねちゃうしあられもない声も出ちゃうのだけれど、寧ろそれは眠くて抑制が効かないからで、与えられる刺激が気持ち良くてとろんとなっていることがそのまま、すっごく気持ちの良い眠りの入り口に直結していたりもする。

あまりに眠くて拒否する明確な意思を示せずにいるうちに、あれよあれよと高ぶって、いけるとこまでいかないと済まないようになってしまう。眠さを通り越せばやっぱり快楽を求めてしまうし、アスランが必要以上に悦びながら中を打ち付けて来ているような気すらして、寝ぼけながらも「ああ、そんなに僕って気持ち良いのかな」とちょっと違う事を考えていたりもする。

ともかくそうして、縺れ合うようにして寝たのが土曜日。

日曜日の朝は案の定、雨音で目が覚めた。
日頃の癖でまず目覚まし時計に視線を合わせる。平日ならばありえない時間だけれど、今日の予定を消したことを思い出して、まあいいかと考えなおす。
別にお腹がすいているわけではない。傍らの存在は満足そうな笑みを浮かべて爆睡していて、キラはそれを見て少しだけ笑った。
結局、かわいいなあと思ってしまうからNOって強く言えないんだよね、と。昨晩受け入れてしまったせいで感覚が狂っている自分の腰を一つ撫でる。
せっかくだからもう一眠りしようかな、と、もぞもぞとキラは毛布を掛け直して布団に潜り直す。
アスランが自分の方を向いているのを良いことに、その胸に擦り寄って休日特有の気だるさを満喫する。
このままうとうとと昼過ぎまで寝ていてもいいかな。
そう思って瞼を閉じる。
すると、キラの気配に感づいたのか、アスランの腕がするりとキラの腰に回された。
眠っているのか起きているのか分からないたどたどしさで、けれど確実な意図をもってアスランの掌はキラの腰を這い回る。
「…アスラン?」
 できれば止めて欲しくて、寝ているのなら無理矢理に手を外そうと思って小さく名を呼ぶ。
 それが、逆効果だと気づいたのは一瞬後。

「…ん、キラ…」

 甘く掠れた声でキラの名を呼びながら、その瞳がうっすらと開いたのだ。

そうしたら、昨晩の繰り返しだった。
違ったのは、今度は眠くないから、キラも上に乗ったりいろいろ舐めたりして頑張ったことくらい。
そうして自分から動いて盛り上げないと、体が興奮しない。その落差と事実を正確に認識して、アスランの胸の尖りをぺろぺろといやらしく舐めながら、なんだかなあと思った。

何度でも言うけれど、とキラは自分に言い聞かせる。気持ち良くないわけじゃないし、嫌いってわけでもない。

全身を倦怠感が支配して、情事の後独特の甘さが寝室に充満する。何時になく贅沢に時間を使ってコトに及んだことに酷くアスランはご機嫌で、率先して甘々モードな空気をまき散らしながら、キラの全身を撫でまわす。

そんなアスランの腕の中におとなしく収まりながら、なんとなくキラは釈然としないものを抱えていた。
なんか全部が全部、アスランの良いように扱われているだけのような気がする。
そりゃあ一週間ご無沙汰だったのだから、その我慢を「眠いから」の一言で押しのけてはアスランに悪いと思う。それを差し引いても、アスランは興奮し出したら止まらない。キラの気分は関係なしに、暴力的にキラのソノ気を高めてしまう。

だいたいここのところいつも、最初の時点でキラはあまりそんな気分じゃないことが多い。
それがちょっと、面白くないと思う。

「ねえ、アスラン」
「なんだ?」
極上のスマイルを浮かべて、キラに相槌を打ってくれる。幸せですと言わんばかりのその表情を、曇らせるのは少しだけ抵抗があるけれども。

「こんどエッチする時は…さ」
「ん?」
キラから、明確に情事のことを話題にするのは珍しい。それが分かっているからこそ、アスランの眼尻は更に細められる。
「僕が欲求不満になっちゃって、君とシたくてシたくて堪らなくなって…っていう時に、したいな」
「ん?」
 今度はやや意味が通じなかったようで、アスランは表情を変えないまま、キラの腰を止まらずにゆるゆると撫でながら首だけを傾げた。

「だって、いつもきみに引きずられるばっかりでさ、あんまり気が無い時でも、きみに触られてるとシたいって思えてきちゃうんだよね。だから」

なんだか、いいことを思いついたなとキラは思った。腕の中に囚われていた体の向きをずらして、アスランの瞳が正面から見られるように調節する。それを覗き込むと、キラを見つめ返してその奥が少しだけ揺れた。キラがそんなことを考えていたなんて思いもしなかったのだろうアスランは、キラの言葉をどう受け止めるべきか少しだけ迷っているようだ。

「僕がきみに欲情するまで待っててよ。次は、僕がきみを誘う」

にっこりと笑って言いきれば、アスランも続いて楽しそうに笑い返した。
ささやかな、ゲームみたいな遣り取り。そう思う事にしたのだろう。
「それは楽しみだな」


 この時点では、キラだってちょっとしたマンネリ打破を目的とした、ちゃちな遊びのつもりだった。








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