NEVER GREEN age15 vol.11 ---無様で滑稽などす黒いシミ
| 不時着するとしても。 妥当なのはそこそこに幅の広い道路であること。コンクリートの舗装は滑走路と似ているし、戦闘機は飛行機の中でも一番小型で荷運び用のトラックよりも小さいくらいだから、ほんの十数メートルのまっすぐ延びた幹線道路があれば申し分ない。 しかし、それは贅沢だと分かっている。 キラに言われたとおりにすぐに高度を落とす。できるだけ低く、ほとんどギアやグリップを使わずに滑らかに飛ぶことで、少しでも燃料の寿命を増やそうと試みる。 「あと、あとちょっとだから頑張って、アスラン!!」 燃料を使うから、とっくにヒーターは止めてしまっている。 無意識に吐いた息がキャタピィに白く籠って、漸く寒い、と思う。キーンと甲高い音が鳴り響くような静寂の中で、不規則で心もとないエンジン音が全身に振動する。その中を伝って、時折キラの、男にしては高い、必死な叫び声が混じる。 まったく、回線なのだから大声を出さなくても聞こえている。 それに、そんなに必死にならなくてもどうせ落ちたとして自分一人で、その後キラはゆったりと基地へ戻れば良い。帰路に僚機が落ちたのでは報告がややめんどくさいかも知れないが、其処はチームのよしみで我慢して貰うとして。万が一不時着が成功していたなら、其処で救助を要請すればよい話だ。キラに必要以上の負担を掛けるつもりは無い。 「あ、アスラン陸だよ!」 だから気にするな、と言いたい。けれど、其れを言うと酷く悲しげな顔をされる気がする。 必要以上に此方を気遣って、まるで自分のことのように心配して。必死に計器や前方を睨んで機体の状態に神経を研ぎ澄ませているから、正直キラと会話している余裕は無い。それでも、流れてきた声音が喜色に溢れていることは一瞬で分かった。 「座標見るね…確か、基地の西寄りに大きな道路があったよね。其処まで飛べるかな…無理でも、その道路ってどの方向に伸びてるんだっけ。ああ、地理詳しくないし、地図持ってないし…」 こんなことならもっと夜遊びしとけば良かった。なんて、冗談だか本気だか分からないことをキラは真面目に呟いた。 「その道路なら下に四コンマ八、右に三の方向だ」 だからつい、意識が散華から離れてキラの言葉を追ってしまう。反射的に問いに答えると、キラは心得たようでふわりと前方に速度を上げた。 「分かった。方向は任せて。アスランは落ちないようにだけ気をつけて付いてきてね」 極々スピードと高度を落として、二機ともがふらふらと頼りなげに飛んで行く。その姿は、どうしても地上から脱することのできない哀れな存在を具現しているようだ、と微かに考えた。そんなつまらない存在でしかない自分は、本当なら何処までも飛んでいけるはずのキラを付き合わせてしまっている。 「…キラ」 黙々とキラの後に付く。燃料の減りは尋常じゃないけれど、どうやら損傷は広がっているわけではなさそうだ。その減り具合にも規則性が見出されてきて、そう直ぐには尽きそうにないと考える。 ならば、することは機嫌が悪くなってしまったエンジンを、なんとか宥め賺すことくらいだ。 意味も無く呼びかけた通信に、返事は無い。 「おまえ、どうしてそんなに必死なんだ?」 純粋な問いだった。自分に利益も害もないのだから、放っておけばよいのに。 再度問いかけても、暫くは無言しか寄越されない。キラの操縦には余裕があるはずなんだがと訝しがり、更には機嫌を損ねたかと溜息を付く。 するとその音に触発されたように、スピーカーの向こうでもゆったりと息が吐かれたのが分かった。 「あのね、パイロットは戦闘中じゃなきゃ死んじゃだめなの」 今は戦闘終わってるでしょ。しかも勝ったでしょ。とキラは当然のように文句を言った。そういうものか、と思う。確かに、自分は最高の終りのために戦闘機に乗っている。 「ほら、道だよ!アスランあれなら降りられるよね??」 会話を打ち切るかのような絶妙のタイミングで、キラの取って代わった喜色が響く。進路を譲ったキラの機体の向こうには、確かに見慣れた幹線道路。荷運びのトラックが街と基地周辺を行き来するための主要道路で、擦れ違えるだけの幅が確保されている。 充分だ。半分の幅でも着陸できる。 「大丈夫だ」 油圧計と燃料計を確認して、グリップを押しだす。ぐんと機首が下を向いて、着陸態勢に入った。 丁度道路は山道に差し掛かるまでの直線で、梶や翼には全く損傷は無いわけだから、着陸は想像以上にスムーズで安全だった。着陸した途端にアスファルトに残った燃料が流れ出して、どす黒い染みを作る。 確率は低いだろうと思ったが、念の為に機体を降り、爆発への対策として道路脇の茂みに身を寄せた。 見上げれば、キラの散華が頭上を旋回している。 どうやら着陸成功を見届けて、安心したらしい。何度か回ってアスランの無事を確認すると、そのまま軽やかに基地の方へと機体を向けた。 報告兼救助要請の為に、キラが基地に到着するまであと一時間強。それからすぐに救助が此方に向かったとしても、三時間。 理由なく小さくなっていくキラの散華を見つめていたら、それは黄金色に輝く、とても青とは言い難い空の中へと消えてしまった。 日が暮れるのが先だな、と考えて。 念を入れて降りた散華から更に離れて、やれやれと煙草に火を付けた。 |
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