未完成な翼     壱 Live as KIRA... より抜粋









 隣に居続ける、と決めた。その翡翠が駆るジンがレーダーに光る。

 彼が望むなら、共に望もうと決めた未来。それは待っていても手に入る、そんな生易しいものじゃないから。



 振り切るように飛び上った後僅かのタイムラグで、キラの居た箇所を主砲が駆ける。

 瞬間で築かれた何も無い空間は、確かに敵戦艦の直ぐ前方まで伸びて、いて。

 半分を切ったエネルギーを視界が捕えたけれど、敵はそれだけの減数をとても見せてはいない。光線が開いた道を、バーニアを噴かしたジンが単機、真っ直ぐに敵陣中央へと走った。

 特攻とも思える猛進に、僅かに敵に動揺が走る。キラの動きに敵機が気を取られた隙を付いて、残りの四機もバーニアを噴かした。

「あの、ばか…っっ」

 通信も拾わないほどの小さな声で、アスランが眉根をきつく寄せて呟いた。

 自分達はまだ戦場に出て間もない。戦艦撃墜の経験など皆無だというのに、あの無鉄砲は。

 敵旗艦前方に躍り出たキラに、当然ながら威嚇射撃がなされる。熱源反応を追い掛けるタイプのミサイル二弾を、キラは器用に交わして互いを当てさせた。爆炎に飲まれた一帯から飛び出したキラが見たものは、アカデミーのシミュレーションで常勝したタイプよりよほど小さな戦艦一隻と、この任務のターゲット。

 MAに戦力を頼りすぎだ、と冷静に戦局を分析する余力まで見せながら、機体を艦の後方に取り付かせる。

「イザークは目標を!」

 何時の間にか追いつき、キラに続こうとしていたイザークの駆るジンが、僅かに瞬迷だけを残して目標に向かう。無論敵は足掻きとばかりにイザークを狙ったが、更に後方から現れたディアッカにいとも簡単にミサイルを相殺させられた。

(この手のタイプは、シミュレーションで負けたことが無いんだ)

 何処に取りつけば最も有効かを知っている。それが、この艦の場合は後方上部だ。

 同時に何処を狙い撃てば一発で炎上するかも、既に体が知っている。

 キラは自らの駆るジンの為だけに改造された対艦重砲を構え、そして念を入れるように数発、続けざまに発射した。エネルギータンクに命中したそれは、数秒の間さえ要さずに艦中に炎を掛け巡らせて。用は済んだとばかりに頷いて、キラはひらりとその身を宙に遊ばせた。

 ふと見遣れば、満足な武器一つない輸送船はとうにイザークによって沈められていて。

 よかった、と唇だけで動かして。アスランは、とレーダーに視線を移す間もなく、どん、と背後に衝撃を感じた。

「こっの、ばか…!!」

 寄越された言葉と背後の安心感、不謹慎ながらも苦笑が漏れて。

 まだ数多く残る残党の合間に、ニコルやディアッカの機体も見え隠れして。背を向けている安心感からか、己が初めて落とした戦艦にもう一度眼を向けた、その時。

 シミュレーションならとっくに画面から姿を消していた。けれどまだ――くるくると炎を上げる敵艦は確かに其処に存在していて。

 艦内の酸素による炎なんだろうな、と眺めていたその視線の先。操舵の効かなくなった艦の下方に、何か蠢くものを見た。炎と煙にまみれて、それが何なのかなかなか分からない。

 離脱するぞ、というアスランの言など耳に入らずに、理由も無くキラの意識は全て其処に向けられていた。肉眼ではもどかしい。モニターに回し、ズームをかける。

 絡みつく爆炎を振り解こうともがく、その何かが上げる煙は如何見ても不自然で。

(離脱艇――??)

 抱いた疑問は確信に近かった。艦を捨て、命だけでも得ようと試みる無惨な姿。MAの場合離脱など無論間に合うはずも無いから、キラは初めて。自らが落とした敵が、生に執着する姿をその眼に見た。

 離脱艇はなんとか艦から逃れようとするのだが発射の際に炎か煙かを巻き込んで、既に大部分が炎上している。とてもじゃないが飛べるはずもなくも母艦に引きずられるように推力を奪われて、

 その小さな船の中に、どれぐらいの絶望と、熱と喘ぎが封じられているのかをまるでキラに知らしめるように。共に闇へと連れられていく。

 確かにその中には人間がいて、そしてたった今キラの手によって。

 命を失おうと、していた。

 その最後の灯火で。当人にも与り知らぬ、戦争が介する刹那の邂逅。絶対に開けぬと無意識に封じていたパンドラの箱を、閉じ続けることを何より戦争が許さなかった。その優しい紫玉が、落ちていく煙をいつまでも映し出して。

 何故殺したのだと、決して聞かれてはならなかった問いをキラにぶつけた。

 全てはキラが有している、何にも代え難い望み一つその為に。

 敵を撃ち、倒し沈めてまた望む。有しているのは誰より身勝手な想い一つ。

 平和を取り戻したいと願うのは、背後で息づく常磐の彼が願うから。その彼の隣に立ち続ける為に同じ願いを抱いているのだろうと、沈む敵艦がキラを詰る。

 ただぼろぼろと紫紺の双眸から涙が零れて。

 この一つの願いの為だけに、犠牲となった存在を想った。

 回線からは「キラ、キラ」と繰り返し彼が名を呼ぶ声が聞こえてきて。此処は望んだ場所なのだと、抱いた実感が更なる罪悪感を伴わせた。



 あそこに乗っていたのは、キラに願いも未来も全てを奪われた、自分と同じ一人の人間達。

 闇に映えるコントラストに、月で別れたきりの―――彼らと種族を共にする、愛しい家族の姿が蘇った。



「――――――……ッッ…!!」



 咄嗟に唇を噛み締めたのは。彼らを悼むことなんて、許されないと思ったから。

 これまで指先で奪ってきた命の重みを、気付いたからとて許されないことぐらいは分かるから。



 抱く願いに幾百、幾千の死と引き換えにする価値があるのかなんて、問われて頷けるはずが無い。





 戦場で生きる理由も、持ち得る望みもただ一つ。







 ―――――いつまでも、アスランの隣に。























































「…また、殺すのか?」






「権利なんてあるとしたら、それを持っているのは俺だけだ」



















 くるくると落下したMAが、地上で潰れて炎上する。

























「――――――敵を、殺さないのだそうです」




















「絶対だ。…だから、生きろ」
















 次に会う時は、此処に還る時。














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